くさび石(スフェーン) sphene CaTiO(SiO4)  [戻る

チタン石(チタナイト titanite)とも呼ばれることがあるが,チタンの含有率はルチルやチタン鉄鉱よりも低く,チタン鉱石とはならない。

二軸性(+),2Vz=20〜40°α=1.843〜1.950 β=1.870〜2.034 γ=1.943〜2.110 γ-α=0.100〜0.192

色・多色性:多くは無色。時に淡褐色〜褐色で濃淡の多色性が見られる。Caを置換して著量の希土類が含まれるものは褐色が強い。

形態:副成分鉱物として産し,名の通り,くさび形自形のものが多く,その断面が菱形に見える。そのほか,丸みを帯びた粒状のことも多い。一方,Tiを含む黒雲母やルチルなどが変質してできることもあり,その場合,透明度の悪い微粒集合体。

へき開:認めにくい場合が多いが,大きい結晶の内部には(1 1 0)の2方向(45°程度の鋭角に交わる2方向)のへき開線が見られることがある。

双晶:時に(1 0 0)の双晶が存在し,多色性や消光状態で認められることがある。

消光角:定義されない。

伸長:定義されない。

累帯構造:あまり認められない。

産状

副成分鉱物。

通常の火成岩では,火山岩にはまれで,深成岩に出現する傾向があり,花こう岩〜はんれい岩に時に含まれる。なお,かんらん岩にはほとんど含まれない。一方,アルカリ岩には出現しやすく,アルカリ深成岩であるエジリン閃長岩やネフェリン閃長岩には肉眼的な粗大な結晶で多く含まれることもある。また,アウインなどを含むアルカリ火山岩にもしばしば含まれる。

変成岩では苦鉄質岩起源の広域変成岩(緑色片岩・角閃石片岩など)にしばしば見られ,くさび形や細長い菱形の自形をなす(一方,泥岩・砂岩・チャート起源の結晶片岩には,もともとそれらがTiに乏しいため,くさび石やルチルのようなTi鉱物はあまり見られない)。
そのほか,後退変成作用を受けて単斜輝石(透輝石成分に富む)が角閃石化したエクロジャイトには,ルチルやチタン鉄鉱の周囲に後退変成による反応縁の微粒集合体をなす場合が多い。これは後退変成作用の際,Caの多い単斜輝石が分解することで変成流体中のCa濃度が高まり(後退変成でできる角閃石はもとの単斜輝石ほどCaを含むことができない),それがルチルやチタン鉄鉱と反応し,くさび石が生成したものである。
また,ひすい輝石岩中のルチルの反応縁をなすことも多く,これはひすい輝石岩がロジン岩化する際,その高Ca流体がルチルと反応してできたものである(このくさび石はペロブスカイトを伴ったり,Caの代わりに著量のSrを含む場合がある)。
接触変成帯では特に閃緑岩〜はんれい岩の中性〜苦鉄質マグマ(花こう岩に比べTiに富む)と石灰岩の接触部(高温スカルンの場合もある)の火成岩側部分に多く生成していることがあり,これは石灰岩側からCaの供給があり,火成岩のTiと化合したもので,時にペロブスカイトやCa-Zr-Ti鉱物を随伴する。




花こう岩中のくさび石
Sh:くさび石,Af:アルカリ長石,Bt:黒雲母,Hb:普通角閃石,Chl:緑泥石,Cal:方解石
花こう岩中の副成分鉱物としてのチタン鉱物はチタン鉄鉱・くさび石が主だが,この画像のように,くさび石周囲の黒雲母や普通角閃石はかなり緑泥石化し,長石類も変質して透明度が悪くなり,方解石などの熱水鉱物も見られる場合もあり,花こう岩中のくさび石についてはマグマの固結物以外に,自家変質作用でできた変質鉱物の場合も多いと考えられる(熱水変質で斜長石のCa,黒雲母や普通角閃石のTiなどが溶け出し,それからくさび石が晶出)。くさび石は変質作用でできるものでも,自形になりやすく,画像のものも中央の粒子は菱形の自形になっている((1 0 0)の双晶をなし,双晶面を境に消光状態が異なる)。
色は無色〜淡褐色のことが多い。屈折率が高く,干渉色も6次に達し,虹色やくすんだ黄色に見える。





角閃石片岩中のくさび石
Sh:くさび石,周囲はほぼ普通角閃石
苦鉄質岩はややTiに富むので,それが変成してできた緑色片岩や角閃石片岩にはTiの変成鉱物としてルチル・チタン鉄鉱・くさび石などが頻繁に見られる。Caに富む変成条件ではチタン鉱物としてはくさび石が主であり,丸みのある粒状のほか,画像のような細長い菱形の自形をなすことも多い。しばしばリン灰石やCaの炭酸塩である方解石やドロマイトと共生する。
クロスニコルでは干渉色が極めて高く,ルチルや炭酸塩鉱物と似る。しかし平行ニコルで見ると,ルチルは濃褐色の場合が多く,くさび石はそれより淡色で無色のことも多い。ドロマイトのような炭酸塩鉱物はくさび石よりもはるかに屈折率が低い。




後退変成作用を受けたエクロジャイト中のくさび石に交代されるルチル
Rt:ルチル,Sh:くさび石,Di:透輝石,Amp:角閃石,Alm:アルマンディン
苦鉄質岩起源のエクロジャイトには副成分鉱物としてルチルやチタン鉄鉱が含まれる。そのエクロジャイトが後退変成作用で変質すると透輝石(単斜輝石)が緑色の角閃石に変質する。その際,もとの透輝石よりも角閃石はCaを多く含むことができず,変成流体のCa濃度は上昇し,それがルチルやチタン鉄鉱の周囲に作用して,上画像のような,くさび石の微粒集合体からなる反応縁ができる。時には完全にくさび石に交代される。
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くさび石の反応縁を持つルチルはロジン岩化作用を受けたひすい輝石岩中にも見られ(下画像),これはひすい輝石岩周囲のかんらん岩が蛇紋岩化する際に派生した高Ca流体が,ひすい輝石岩中のルチルに作用してできたものである。なお,このぶどう石もロジン岩化の際にひすい輝石を交代してできたものである。
Rt:ルチル,Sh:くさび石,Jd:ひすい輝石,Prh:ぶどう石